看護師国家試験出題基準 令和5年版
112回看護師国家試験より、新出題基準の導入が予定されました。
保健師助産師看護師国家試験出題基準 令和5年版 改定概要
Ⅰ.はじめに
保健師助産師看護師国家試験の内容は、保健師、助産師及び看護師が保健医療の現場に第一歩を踏み出す際に、少なくとも具有すべき基本的な知識及び技能であり、保健師助産師看護師国家試験出題基準(以下、「出題基準」という。)は、これらを具体的な項目によって示し、保健師国家試験、助産師国家試験及び看護師国家試験の妥当な内容や範囲と適切な水準を確保する目的で作成されている。保健師及び助産師については平成10 年、看護師については平成12 年の国家試験から適用され、その後、社会の変化や看護を取り巻く状況を踏まえて、改定を重ねてきた。平成16 年には看護師国家試験の必修問題の導入に
伴い特に重要な基本的事項を出題基準として提示し、平成22 年には必修問題の出題範囲を拡大するとともに、カリキュラム改正を踏まえ、新旧カリキュラムに対応可能となるよう項目を見直した。また、平成26 年には実践能力の強化の観点から、各職種に求められる実践能力と卒業時の到達目標等を反映した内容とし、看護師国家試験では、「看護の統合と実践」の出題基準を新たに作成した。さらに、平成30 年には「看護の統合と実践」において、複合的な事象に対して、より臨床実践に近い形で知識・技術を統合して判断する能力を問う出題内容となるよう、新たに項目を作成する等の見直しを行った。
令和3年3月に取りまとめられた「医道審議会保健師助産師看護師分科会保健師助産師看護師国家試験制度改善検討部会報告書」(以下、「制度改善検討部会報告書」という。)において、出題基準について、「看護基礎教育が修了した時点で備えているべき基本的な事項を問うために保健師助産師看護師のそれぞれの特徴を反映して出題されるよう、教育内容を踏まえ、改めて出題基準の体系や項目の見直しを行う」ことが提言された。また、小項目について、「中項目に関する内容をわかりやすくするために示したキーワードである」ことを踏まえて過度に限定的にならないよう抽象度を見直すこと、看護師国家試験の「看護の統合と実践」について、実際の試験問題の作成過程において難易度が上がりやすい等の課題があるため、「教育内容としての『看護の統合と実践』の導入の趣旨をふまえ、看護基礎教育を修了した時点で備えているべき基本的な事項として問う内容が明確となるよう項目を整理することが望ましい」ことが示された。
また、令和5年版の出題基準の適用に際して、「令和5年実施の保健師助産師看護師国家試験から数年間は改正前のカリキュラムで学んだ受験者と改正後のカリキュラムで学んだ受験者が混在することから、当該国家試験の受験に際して、両者ともに不利益を被ることがないよう、特段の配慮が必要である」ことが留意点として挙げられた。
これらの提言を受け、令和3年8月より医道審議会保健師助産師看護師分科会のもとに保健師助産師看護師国家試験出題基準改定部会を設置し、ワーキンググループでの検討を含めて議論を重ね、出題基準の改定を行った。
Ⅱ.改定の概要
1. 全体的な事項
○人口・疾病構造や社会背景などを踏まえつつ、近年の保健・医療・福祉の実情など看護を取り巻く状況の変化に伴い、より重要となる教育内容に関する項目の精選と充実を図った。
○中項目が実際の「出題の範囲」であることから、具体的に示す内容や求める知識・能力が明確となるような表現の工夫を行った。また、出題基準は各学校養成所の教育で扱われる全ての内容を網羅するものではなく、これらの教育のあり方を拘束するものでもないこと、加えて、小項目は「中項目に関する内容を分かりやすくするために示したキーワード」であることから、個々の記載事項に番号を振らない形式へと変更するとともに、過度に限定的にならないよう内容の精査を行った。
○看護基礎教育におけるカリキュラムの改正経緯を踏まえ、各職種に求められる実践能力と卒業時の到達目標との整合性について留意しながら見直しを行った。一方で、令和5年版の出題基準は、改正前のカリキュラムで学んだ受験者と改正後のカリキュラムで学んだ受験者が混在する時期に使用されることから、双方のカリキュラムで学び得る内容となるよう配慮した。
看護師国家試験出題基準
看護師国家試験においては、看護基礎教育におけるカリキュラムの改正経緯を踏まえ、看護の対象について地域における生活を含めて理解し、健康課題の多様化や看護の役割の拡大にあわせて、看護基礎教育を修了した時点で備えているべき必要な知識や能力を問うことができるよう、項目の充実を含めて見直しを行った。また、各領域における出題の範囲が明確となるよう、領域間の項目の調整や、中項目及び小項目の体系の整理や表現の見直しを行った。各科目における改定の概要は以下のとおり。
【必修問題】
○習熟度や難易度を考慮して、必修問題として問うべき内容の精査を行った。また、近年の教育現場及び臨床現場の実態を踏まえ、感染防止対策に関する項目の充実を図った。
【人体の構造と機能】
○人体の正常な構造及び機能に関して、疾病を理解するために必要な知識を問えるよう、目標及び各項目の見直しを行った。
○老化に関しては、老年看護学において支援とあわせて知識を問うことが適切なことから、項目を整理した。
【疾病の成り立ちと回復の促進】
○基礎医学における体系との整合性を踏まえ、全身の感染性疾患、皮膚機能に関する項目を新設したほか、看護基礎教育における基本的な知識として学ぶ疾患について項目を整理・追加した。
【健康支援と社会保障制度】
○目標との整合性を踏まえ、大項目及び中項目の体系を整理した。また、健康支援の基盤となる法・制度の近年の動向を反映し、全体的に項目を整理・追加した。
【基礎看護学】
○「必修問題」や「看護の統合と実践」との重複内容や整合性について全体的に整理し、出題の範囲やキーワードがより明確となるよう表現を見直すとともに、基礎看護学で問うべき内容を整理した。
【成人看護学】
○臨床現場における看護実践や看護基礎教育としての知識の必要性を踏まえて、各疾患や検査・処置・治療に関する患者及び家族への看護について、項目を整理・追加した。
【老年看護学】
○高齢者の生活や、高齢者に特有な症候・疾患・障害に関する看護について、老年看護学としての出題の範囲が明確となるよう、中項目及び小項目の体系と表現を全体的に見直した。
【小児看護学】
○子どもと家族への支援について、発達段階や課題を主眼として問うことができるよう、中項目及び小項目の体系を整理した。
【母性看護学】
○母性看護の基盤となる概念や、女性・母子を取り巻く環境について目標を統合し、項目を整理した。
○妊娠・分娩・産褥期及び早期新生児期における看護について、看護師国家試験としての出題範囲を考慮して項目を全体的に整理した。
【精神看護学】
○身体合併症のある患者への看護や、精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築と社会資源の活用など、近年の精神看護における動向を踏まえて項目の充実を図った。
【在宅看護論/地域・在宅看護論】
○改正後のカリキュラムでは、「在宅看護論」が「地域・在宅看護論」に変更となり、科目の位置づけも変更となるが、改正前のカリキュラムの「在宅看護論」と改正後のカリキュラムの「地域・在宅看護論」の双方において適用する内容とするため、制度改善検討部会報告書における「看護師国家試験の試験科目を改正する省令(保健師助産師看護師法施行規則の一部を改正する省令)が施行されるまでの間、出題基準に『在宅看護論』を併記することが必要である」との指摘も踏まえ、表題を「在宅看護論/地域・在宅看護論」とし、位置づけは改正前のカリキュラムにそろえることとした。
○地域における多様な場における対象者や看護の役割の拡大を踏まえて項目の充実を図った。具体的には、地域・在宅看護の対象である在宅療養者及び家族の特徴と健康課題について、対象を取り巻く環境や地域での生活を含めた理解を問うとともに、地域における多様な場での看護の役割や多職種連携について、全体的な体系の再構成を含めて項目を整理・追加した。
【看護の統合と実践】
○制度改善検討部会報告書の提言を踏まえ、看護基礎教育を修了した時点で備えているべき基本的な事項として問う内容が明確となるよう、習熟度及び難易度も含めて検討し、全体的に項目を整理した。
○複合的な事象において看護の知識を統合し活用できる判断能力を問う目標Ⅳについて、教育内容としての「看護の統合と実践」の導入の趣旨を踏まえ、切れ目のない支援を提供するための継続した看護、複合的な状況にある対象や看護を判断し危険を回避する取組み、安全確保のための総合的な判断・対応などに関する5つのテーマを提示し、これらのテーマをもとに、専門分野の各科目で学んだ内容を統合し、臨床実践場面における状況設定問題として出題することを明示した。